参考記事です。
ブロックチェーンがお墨付き 中銀や役所さらば
新・産業創世記 そう、個人が主役(1)
日本経済新聞web 2016/8/15 2:00
現代の中央銀行のモデルはイングランド銀行にある。1844年、ポンド紙幣の事実上の独占発行権を同銀行が得たことがはじまりだ。中央銀行が発行するから価値がある――。長く染みついた常識を一つのイノベーションが覆す。2009年にサトシ・ナカモトを名乗る人物が考案したとされる仮想通貨「ビットコイン」である。
円でもドルでもない新たな「通貨」の利用者は世界で延べ1400万人超。取引価格が乱高下するから、投機的に購入する人もいる。だが、スマートフォン(スマホ)片手に海外送金や実際の店舗での支払いに使われているのも事実だ。
ビットコインの信用を裏付けるのがブロックチェーンと呼ぶ技術だ。ネットでつながった無数の個人が暗号化した取引情報を検証し、お墨付きを与える。
今月、香港を拠点とする仮想通貨取引所ビットフィネックスがハッキングによって顧客口座から約65億円相当の「ビットコイン」が盗まれたことが明らかになった。安全性への疑念も呼ぶが、同業ビットバンク(東京・渋谷)の広末紀之社長は言う。「例えて言えば、銀行強盗に遭ったようなもの。ブロックチェーンそのものの信用は揺らがない」
用途は仮想通貨以外にも広がる。
北欧バルト海に面するエストニア。日本の9分の1の国土で人口130万人の小国でIT(情報技術)を活用した行政の効率化が進む。納税から出生証明、事業所の開設……。この国ではあらゆる行政サービスが国民一人ひとりに割り当てられたIDを埋め込んだICカード1枚で済む。
同国に拠点を置くIT企業ガードタイムが開発した認証システムが行政サービスを支える。同社は07年の創業以来、ITインフラ作りを進める政府に協力。ブロックチェーン技術を取り入れたことで、膨大な処理を瞬時でこなし、サイバー攻撃にも耐えるシステムを作り上げた。
米国でも事業を拡大、医療や交通の分野でも顧客を増やす。ディレクターのマーティン・ルーベル氏(40)は「もともとエストニアは国が小さい。世界市場をめざして開発してきた」と語る。
ブロックチェーンの採用は日本でも進む。
企業向け管理システムを販売するサテライトオフィス(東京・江東)は7月半ばからブロックチェーン技術を活用した社内管理システムを使い始めた。提供したのはベンチャー企業のシビラ https://sivira.co/index-ja.html (大阪市)。記録が残るというブロックチェーンの長所に目を付け、社内外からの不正アクセスの動作記録から犯人を割り出せるようにした。
シビラの藤井隆嗣社長(31)は確信する。「ブロックチェーンを生かせば我々の生活はもっと便利になる」
中央銀行や政府が担ってきた「お墨付き」という行為。強大な権力を持つ機関が手掛けるから、認証を受けたモノの価値も高まった。だが、ブロックチェーンでは世界に散らばる無名の個人や小さな企業であっても認証作業ができる。デジタル技術が、世界を長く支配してきた中央集権の構造を突き崩す。
出典 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01I54_U6A800C1MM8000/