参考記事:IT“特盛り”の海の家に行って顧客目線とは何か考えた

IT“特盛り”の海の家に行って顧客目線とは何か考えた
日経コンピュータ 2016/09/08 高槻 芳様
出典 http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/14/334361/090600657/?n_cid=nbpitp_fbed

本当に顧客の役立つシステムになっているか、機能不足や改善点はないか。導入現場の課題を知ろうと、自ら「海の家」の経営に乗り出したIT企業がある。システム開発を手掛けるセカンドファクトリー(東京都府中市)だ。
小田急電鉄江ノ島線の終着駅、片瀬江ノ島駅から歩いて5分。若者や家族連れで賑わう片瀬東浜海水浴場の入り口そばに、「SkyDream Shonan Beach Lounge」はあった。灼熱の太陽に時折吹く潮風、海水浴客で溢れかえるビーチ。誰の目にもITとは縁遠いように思える現場に、セカンドファクトリーは自社開発のタブレット型POS(販売時点情報管理)や飲食店・小売店向けの運営管理システムを導入。クラウドと連携させ、店長が遠隔からスマホやパソコンで売上状況を確認できるようにした。桟敷席などに設置したネットワークカメラを介して、店内の混み具合も把握できる仕組みだ。
それだけではない。開発や販売に携わる社員がタブレット片手に海水浴客から注文を取り、厨房にも立つのがセカンドファクトリー流だ。日々の店舗営業で生まれる悩みや失敗の一つひとつが、製品・サービスの改善につながる宝の山になっている。

セカンドファクトリーが海の家を開くのは、今年で4年目。同社の大関興治社長は「技術ありきでは上手くいかない」と話す。最初にネットワークカメラを設置した際は、AI(人工知能)を使った画像解析など高度なシステムを想定していた。だが、実際運用するうちに「混み具合やオペレーションの様子が分かるだけでも十分に役立つ。顧客の悩みは最新技術よりもっと手前の段階にある、と実感した」(大関社長)。
よくある顧客へのヒアリングや現場観察だけでは、中々こうはいかない。「顧客目線で考えよ」「顧客の現場を肌感覚で知ろう」。桟敷席で大関社長から話を聞いている間、脳裏に浮かんできたのは、かって取材したIT企業の経営者たちのこんな言葉だ。真理だが、それをどこまで追求できているか。セカンドファクトリーのように、顧客である飲食店の「同業者」になってまで顧客目線を、という徹底した取り組みは少ない。
実は筆者は、取材を始める前に「たしかに面白い取り組みだが、海の家はちょっと特殊すぎるのでは」と感じていた。だが、桟敷席を見回してすぐに考えが変わった。壁一面に並んでいる、有名IT企業のロゴ。今年、セカンドファクトリーの海の家にITインフラを提供したパートナー企業の数は、昨年の2倍を超えた。海の家という実戦の場に自社の製品やサービスを投入し、一般消費者を相手に鍛えることができる。この魅力に気付いた約20社が、協力企業として名乗りを上げたのだ。
今年の海の家は、さながらIoT(インターネット・オブ・シングス)のシステムやクラウドサービスの共同実験スペースだ。スマートフォン(スマホ)用アプリと店舗に設置したビーコンを連携させて、クーポンを発行するのは序の口。店舗の裏側にあり利用状況が分かりにくかった仮設トイレは、「スマートトイレ」に変身させた。トイレの鍵にセンサーを組み込み、開閉を検知して使用中かどうかを店内の大型ディスプレーで知らせてくれる。このディスプレーには、店舗管理システムで把握しているその日の商品の売れ筋や累計来店客数なども表示する。
唐揚げやラーメンの売り場の脇には、家庭用二足歩行ロボット「パルミー」を設置。時々、場の空気を読んだおしゃべりで来店客を和ませる。裏側ではネットワークカメラが映す店内の映像をクラウドに蓄積し、来店客の表情をもとに感情を分析するシステムが動いている。
都会のオフィスにある展示スペースではない。予想外のトラブルや不具合は付き物だ。スマートトイレのセンサーは、当初は外付け。不審に感じた客が壊してしまうこともあったため、途中から鍵の内部に組み込んだ。
もともと、自社の製品や社員の研さんの場として始まったが「今や様々な企業との共創のフィールドになった」(大関社長)海の家。IT企業が、本当の意味で顧客(企業)の顧客(消費者)と接する”修行の場”として、来年はどう進化していくのか。筆者は今から楽しみにしている。