参考記事:インターンがRettyの実用AIを開発した

AI(人工知能)を使って、労働集約的な仕事を自動化していかなければ、先はない――。
実名型口コミのグルメ情報サービスRetty(レッティ)が独自のAI開発に注力してきた理由を、このように説明しました。Rettyは経営規模を拡大させるうえで乗り越えるべき課題として、2015年からAIに本腰を入れて取り組みました。
しかし当時の社内には、実務に適用できるほどAIに精通した人材はいませんでした。そこで考えたのは、インターン生の力を借りることです。

読者のなかには、インターン生は実務では役に立たない、と思っている人がいるかもしれません。Rettyではそう考えていません。もちろん社会人としての経験は乏しいのですが、それよりも大事な仕事への意欲は目を見張るものがあります(そういう学生を選んで採用しているという面もある)。大学・大学院で研究している内容については、社員より詳しいことも珍しくありません。

そのためRettyではインターン生に、誰でもできる仕事だけを与えるのではなく、社員と一緒に業務上の課題にも取り組んでもらいます。実際、インターン生は急速に成長を遂げつつ、課題解決に努めてくれます。短い間に、解決策の糸口を見つけるだけでなく、具体的な解決策を示してくれることもあります。多くのケースで、実務において戦力になっています。

インターン生にそこまでやらせるのか、正社員でもないのに厳しすぎる、と思うかもしれません。もちろん無理強いはしませんが、これはインターン生が求めていることです。新しいことを自分で成し遂げたい、という情熱や意欲を持ってインターンシップに応募してくる学生はたくさんいます。Rettyのインターンシップの方針は、そんなインターン生の自主性を尊重し、社員によるサポートや環境提供によって一人ひとりの目的実現を後押しすることです。「Rettyに行けば挑戦的な仕事ができる」と思うからこそ、意欲の高い学生が応募してくれるのです。

インターン生を積極的に受け入れてきたのは、Rettyの創業以来のことです。応募者の要望に合わせて、時期を問わず短期でも長期でもインターン生を受け入れています。そんな経緯があったので必然的に、AI開発でインターン生に協力してもらおう、と考えたのです。

AIを研究する優秀な学生を集められる、という自信もありました。AIはホットな研究分野ですが、大学・大学院の研究室にはデータが乏しく、研究を進めるのに苦労している、という事情を聞いていたからです。Rettyには、研究対象になるデータがあります。これを提供すれば、AIを研究する学生がインターン生になってくれるのではないかと考え、こちらから探して勧誘することにしました。

結論を先に言うと、この考えは当たり、AIを研究するインターン生の人数が社員のエンジニアの人数を超えるまでになりました。その軌跡を紹介しましょう。

手始めとして2015年夏に、人材紹介会社が主催する逆求人イベント(学生から条件を提示して企業を探すもの)に参加し、社員のエンジニアが熱っぽくプレゼンテーションをしました。

それをきっかけとして、AIを研究するインターン生Aさんが入ってきました。Aさんと相談して、ユーザーが投稿した感想文から料理メニュー名を抽出するAIの開発に取り組んでもらいました。このAIの難しさは、「玉子焼き」のような一般的なメニュー名だけでなく、「茄子とほうれん草のふわふわ焼き」のような店舗ごとの独創的なメニュー名も抜き出すことにあります。従来は人手に頼ってきましたが、それでもしばしば間違えるほどです。AIによる自動化は容易ではなく、難航が予想されました。

ところがAさんはすぐにAIのプロトタイプを開発し、2015年10月にデモを行いました。精度は実用レベルに達していないものの、十分に可能性を感じさせるものでした(現在は社員のエンジニアが引き継いで実用化へ向けて開発中)。

このデモは社内に衝撃を与えました。「インターン生はAI開発で即戦力になる」。Retty社内はこの考えで一致し、インターン生の獲得にさらに力を注いでいきます。2015年11月に「Retty Technology Campus Tokyo(Tech Campus)」と名付けた学生向けオフィスを、東京大学本郷キャンパスの近くに設けました。

オフィスというと大きなコストを掛けているように思うかもしれませんが、実態はコワーキングスペースの一部を借りただけです。それでも、大学の研究室からすぐ行けて時間の無駄がないというメリットは大きく、多忙な東大のインターン生に好評でした。東京・五反田のRetty本社は本郷キャンパスから電車で30分以上掛かるので、それがネックになっていたのです。

インターン生に社員のエンジニアが触発される

Tech Campusは、単なる学生向けオフィスではなく、RettyのAI開発拠点という位置付けでした。社員のエンジニアをインターン生から何でも相談を受けるメンターに任命。そのうえで、インターン生一人ひとりがAIの手法を考えて適用し、成果を週次で発表します。さらに、社員のエンジニアからのフィードバックを基にインターン生が改良する、というサイクルを回しました。

インターン生に触発されて、社員のエンジニアの間でAI開発への意欲が高まっていきます。社員のエンジニアは、メンターとして相談を受けたり助言したりする過程で、AIの知識が自然と身に付いたうえに、インターン生の前向きな姿勢に共感したのでしょう。ビッグデータ処理に詳しい一部の社員のエンジニアが、AIを勉強し試行錯誤するようになりました。そのための時間は、「10パーセントルール」という社内制度を使って捻出しました。これは、業務時間の10パーセントを、自分の担当業務を超える課題解決に割り当てられるもの。10%の余力をAIに注ぎ込んだというわけです。

翌12月に、Aさんが大きな成果を出します。ユーザーが投稿した写真画像を料理/店舗外観/内観(店内)/メニューの四つに分類するAIのプロトタイプを開発したのです。この時点で既に精度が高く、社員のエンジニアが開発を引き継いで半年後に実用化します。これが、RettyでのAI実用化第1号となりました。

12月下旬には、行動情報データ解析事業のUBIC(現FRONTEO)と共同でAIのハッカソンを開催しました。このころからインターン生の応募が徐々に増えていきます。象徴的な存在が、米ハーバード大学に留学中の日本人学生Bさん。翌2016年1月にインターン生になり、ユーザーが自然言語による対話形式で店舗を検索できるチャットボットのプロトタイプを開発しました。

2016年春には、口コミでTech Campusの話が広がったためか、早稲田大学や慶應大学などからもインターン生の応募がくるようになりました。

同年4月には、社員のエンジニアの一人をAI開発の専任にしました。社員のAI専任者が主導することによって、開発がさらに加速します。インターン生と社員エンジニアが一緒になって考案したAIのアイデアのうち、実現可能性ありと判断したものはこれまでに60個以上。それらをAI専任者が主導して検証し、実用化していきました。

人の仕事をAIで置き換えた案件、人の仕事を残したままAIでサービス強化した案件、投稿された写真画像の解像度を高める「超解像」のように新しいサービスを実現した案件を合わせると、AIの適用箇所は全部で10に上ります。今後もインターン生の力を借りながら、AI専任者が主導して増やしていく予定です。

一般に、AIの活用が進むほどコストが膨らむもの。ビッグデータによってAIを作成・補正する過程(機械学習)で、大きなコンピューティングリソースを必要とするからです。しかしRettyでは、コストは全く問題になっていません。東京・秋葉原で購入したGPUボードで、AIの基盤を自作したからです。これまでに投じたAI開発のコストは50万円に過ぎません。

出典 http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/032300097/032700003/